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バカの壁と世論

2004421

宇佐美 保

 

元朝日新聞編集委員(現AERAスタッフライター)の田岡俊治氏は、常々、朝日ニュースターの番組「パックインジャーナル」に於いて、

 

 ダッカの際の人質は、米国人が居たからであって、「人命は地球より重い」と云われたその人命は、「米国人の人命」であって、日本政府にとっては「米国人の人命は地球より重い」と云うことだったのだ。

 

 と語っています。

(只、残念なことには、又、不思議なことには、田岡氏以外のジャーナリストは、この様な事実を誰も披露していないことです。

出来ましたら、田岡氏が、朝日新聞等で明確に全国民にこの事実を伝えて欲しいものです。)

 

 ところが、福田官房長官は次のような談話を発していました。(朝日新聞:49日)

 

 福田官房長官は9日午前の記者会見で、イラクでの日本人人質事件に関連し、父の福田赳夫首相(当時)が77年のダッカ事件で「人命は地球より重い」として赤軍派メンバーを釈放し、身代金を払う超法規的措置をとったことを問われ、「時代が違う。意味合いも違うんじゃないか」と述べた……

 

 この福田談話を多くの日本人は 

イラクでの日本人人質は、退避勧告が出ているところに勝手に出掛けたのだから「自己責任」は当然だ!それに比べて、ダッカの人質は全く落ち度のない人達なのだから国が救って当然」

と何ら疑うこともなく、御納得しているようです。

 

 一体どうなっているのですか?!

こんな調子ですから、愚かで怠慢な私達は、日本政府の 

自衛隊のイラク派遣は、人道復興支援の為

との説明を鵜呑みにして居るのです。

 

 そして、川口外務大臣が、

「今年に入ってからイラク国内から退避するよう勧告する渡航情報を13回も出している」

と発言すると、“そうか13回も退避勧告を出していたのに、それを無視したのか!”と人質の方々を非難しますが、では、前の12回の時は何事も起こらなかったではありませんか!?

何回も出していればそれで良いというものではないはずです。

何回も出していれば、かえってオオカミ少年となってしまうでしょうし、お役人の責任逃れの退避勧告とも受け取られかねません。

 それに、今回の退避勧告に「11月にはティクリートにおいて、我が国の外務省員2名及び現地人運転手1名が殺害される事件が発生しました」と記述されていますが、未だに、その犯人が明確に掴んでいないではありませんか?!

米軍の誤射説はどうなっているのですか?!

 

若し、私達が愚かで怠慢でないのなら、「フセインが、大量破壊兵器を持っていて危険だから」との偽りの大義でもって米国のイラク戦争を支持した上、“イラクの何処が安全かどうかなどは、私が判るはずがない”などと発言しつつ、自衛隊をイラクに派遣してしまった小泉首相に非難の声を上げていなくてはならないのです。

 

 ところが、非難の声を上げるどころか、朝日新聞の全国世論調査(17、18日実施)では、「首相続けてほしい7割以上」となっているのですから、私は呆れてしまいます。

 

 そしてこの世論は、私達国民の「国民年金」、「厚生年金」を食い物にしたくせに、己の「議員年金」は絶対に手放すまいとしている議員達が決定する国の政策を、善意で勇気ある個人の行動よりも常に正しいと信じ込んでいるのです。

 

 年金をガタガタにした以上に、議員達は、国家財政自体もガタガタにしているのですよ。

何故彼等を盲目的に信じるのですか?!

 

 私は、次のような記事を見て大変悲しくなりました。

(朝日新聞:4月13日)

 

 北海道千歳市内にある高遠菜穂子さん(34)の実家にはここ数日、東京にいる弟修一さん(33)、妹井上綾子さん(30)らの記者会見発言に対する批判や嫌がらせの電話や手紙が相次ぎ、知人らが電話を取り次ぐなどして対応しているという。

 関係者によると、拘束されたことが報道された日から、「自業自得だ」などとする電話や手紙があり、その後、テレビで弟妹らの記者会見の模様が流れると、すぐに嫌がらせの電話が鳴るという。

 

 そして、田原総一朗著『日本の戦争:小学館発行』の、次の記述を思い出しました。

 

 わたしはかつて東条の用賀の家(東条がピストル自殺を図り、未遂に終わった)で、東条の娘光枝を取材したことがある。畳の部屋で行李二杯の手紙やはがきを見せられた。日本国中から寄せられた一般の国民からの郵便物だった。内容は二つに大別された。「米英撃滅」、「鬼畜米英を倒せ」、「猶予は亡国、即時立て」といった戦争を強く促す内容と、「何をぐずぐずしている」、「弱虫東条」、「いくじなしはヤメロ」といった「ぐずぐずしている」東条批判である。東条が首相になってから開戦までの五〇日あまりに三〇〇〇通以上来たということだ。

 東条も、天皇や木戸と同じく、戦争を強引に抑えたら、主戦派の中堅将校たちを中軸とした内乱が起き、自分たちを全て殺して無秩序に戦争に暴走することになる、と恐れたのだろう。そして収拾のつかない内乱を爆発させるよりも、自分たちが主導権を持てる戦争の方を選んだ。それは統帥部の幹部たちも同様だった、とわたしは捉えたい。だが、いずれにしても勝つ見込みはない戦争だった。……

 

 ですから、結局は私達の父母や、爺婆達の無知が、先の戦争の引き金を引いたことになる訳です。

 

 と申す私も、拙文《私が60年安保闘争で学んだ事》に記しましたように、「安保」の本質も判らず、安保反対!と声を上げデモに加わっていたのです。

 

 私は、朝日ニュースターの番組「パックインジャーナル」を良く見ます。

但し、司会の愛川欽也氏や、番組構成の評論家横尾氏が、自ら勉強しない為にインチキ経済評論家に簡単に手玉にとられる点等が、好きになれません。

でも、両氏とも、小泉氏が首相に就任時から、常に小泉反対を訴え続けていた慧眼には敬服しています。

そして、愛川氏は、

“支持率があまり高いという事自体が異常なんだよ”


と発言していたと思います。

そして、愚かな私は、本当にそうだなあと、今、つくづく愛川氏に感心しているのです。

 

 売れに売れた、大ベストセラー養老孟司著『バカの壁』には次の記述があります。

 

しみじみ思うのですが、学者はどうしても、人間がどこまで物を理解できるかということを追究していく。言ってみれば、人間はどこまで利口かということを追いかける作業を仕事としている。逆に、政治家は、人間はどこまでバカかというのを読み切らないといけない

 しかし、大体、相手を利口だと思って説教しても駄目なのです。どのぐらいバカかということが、はっきり見えていないと説教、説得は出来ない。相手を動かせない。従って、多分、政治家は務まらない。

 このように、学者と政治家とはまったく反対の性質を持っている。学者が政治をやってうまくいくわけがないというのは、人間を見損なう、読み損なうことになりがちだからです。

 つまり、プラトンが言うところの「哲人政治」というものは成り立たない。なぜなら、プラトンは学者だから、人間、どこまで利口かということを考えて、利口な人に任せたらいい、と考える

 しかし、現実はそうではない。多数を占めているのは普通の人だから、普通の人がどの程度で丁度いいかをしっかり見据えておかないと、間違ったほうへ行ってしまう。……

 

 誰しも養老氏の見解に御納得すると存じます。
(但し、如何に養老氏といえども”多数を占めているのはバカの人”と書くのを憚って”多数を占めているのは普通の人”と書かれているようですが。)

だって、そうでしょう、誰しも一寸考えればお判りと存じます。

町を歩けば直ぐ判ることです。

私達が、町中で遭遇する方々の内、小泉支持に相当する70%以上の方々が、御立派な方と思えるでしょうか?!

 

 少なくも、私達年寄りは、“今の若者は!”と思うでしょうし、若者達は“年寄りはうるさいんだよ!”と思うのではありませんか?!

 

 ですから、愛川氏の御説のように、大多数の世論と自分の見解が一致したら、自分の考えを今一度見直すべきと、安保の体験を思い出しつつ、私は反省しているのです。


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